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歯科医師の求人に応募が来ない本当の理由 — 20代の勤務医は全国に2,617人しかいない

歯科医師の求人に応募が来ない本当の理由 — 20代の勤務医は全国に2,617人しかいない

歯科医院の経営支援をしていて、いちばん多くいただく相談のひとつが「求人を出しても応募が来ない」です。

求人媒体を変えてみた。写真を差し替えた。給与も上げた。それでも来ない。院長先生からすると「うちに何か問題があるのか」と不安になる状況ですが、最新の統計を分解していくと、少し違う景色が見えてきます。

先に結論を書いてしまうと、応募が来ないのは、貴院の魅力の問題である前に、市場構造の問題です。若手の勤務医は、そもそも採用市場にほとんど存在しません。

この記事では、厚生労働省の「令和6(2024)年 医師・歯科医師・薬剤師統計」と「令和6(2024)年 医療施設(動態)調査」の数字をもとに、歯科医師採用市場の実態を整理します。

歯科医師10万人は、どこにいるのか

医療施設で働く歯科医師は、全国に100,266人います(令和6年12月31日現在)。数字だけ見れば「10万人もいるなら、うちに1人くらい来てくれてもいいのに」と思いたくなります。

内訳を見てみます。

  • 診療所(歯科医院)勤務: 88,703人
  • 病院勤務: 11,563人(うち大学病院など医育機関附属が8,289人)

そして、歯科診療所の数は全国に66,378軒です。

ここで最初の構造が見えます。診療所で働く約8.9万人のうち、院長だけで約6.6万人が埋まる計算になります。1医院に1人、開設者がいるからです。診療所の歯科医師から院長分を除くと、勤務医として働いている歯科医師は、ざっくり2万人強しか残りません。

「10万人」という数字の印象と、「勤務医のプールは2万人程度」という実態。まずここに大きなギャップがあります。

年齢構成の壁 — 診療所の歯科医師は50歳以上が63%

次に年齢です。ここが今回いちばんお伝えしたい数字です。

診療所で働く歯科医師の年齢構成(令和6年)は、次のようになっています。

年齢階級 人数 構成割合
29歳以下 2,617人 3.0%
30〜39歳 12,387人 14.0%
40〜49歳 17,800人 20.1%
50〜59歳 20,068人 22.6%
60〜69歳 21,997人 24.8%
70歳以上 13,834人 15.6%

50歳以上が63.0%を占めます。歯科医師全体の平均年齢は53.4歳です。

そして29歳以下は、わずか3.0%。診療所で働く20代の歯科医師は、全国で2,617人しかいません。47都道府県で割ると、1県あたり平均56人です。

「若い先生を採用したい」という希望が、統計的にどれほど狭い的を狙う話なのか、この数字が示しています。

若手はどこへ消えたのか

若手の歯科医師が、ある日突然いなくなるわけではありません。卒業後のキャリアの流れを追いかけると、診療所の採用市場に届く前に吸い込まれていく場所が、順番に見えてきます。

最初の行き先は、大学病院です。

卒後の臨床研修を終えた若手が最初に集まるのは大学です。大学病院(医育機関附属)で働く歯科医師8,289人は、29歳以下が35.6%、30代が35.7%。30代以下で71.3%を占め、病院勤務全体の平均年齢は39.6歳と、診療所中心の全体平均より14歳近く若い集団です。

私自身、大学病院の口腔外科に12年おりましたので、ここは実感としてよくわかります。医局に所属して専門研修を積んでいる間の若手が、一般の転職市場に出てくることはまずありません。市場に出るのは、医局を離れる、専門医を取得する、家庭の事情で勤務地を変える、といった限られた節目だけです。求人媒体で積極的に職探しをしている若手勤務医は、統計上の2,617人よりさらに少ない、ごく一部ということになります。

ただし、その大学・病院も「若手の貯水池」ではなくなりつつあります。

「なら大学病院との接点を作ればいい」で終われば話は簡単なのですが、病院で働く若手歯科医師の数そのものが細り続けています(病院従事者の約7割は大学病院勤務です)。

  • 病院に従事する29歳以下の歯科医師: 2012年 4,409人 → 2024年 3,326人(12年で約25%減)
  • 歯科医師の総数も、2022年の101,919人から2024年は100,266人へ、2年で1,653人の減少

私が医局にいた頃と比べても、大学に残る若手は減りました。

では、大学を出た若手はどこへ向かったのか。統計と現場の実感を突き合わせると、行き先が2つ見えます。

1つめは、矯正・自由診療の領域です。主たる診療科別の統計で、歯科医師の総数が減るなかで唯一はっきり増えているのが矯正歯科です(2022年4,294人 → 2024年4,448人、+3.6%)。平均年齢も47.7歳と、歯科全体の54.7歳より7歳若い。マウスピース矯正の市場拡大もあり、特定の医院に所属せず複数の医院を掛け持ちで回る、いわばフリーランス型の矯正医も、現場では確実に増えている印象です。この働き方をする先生は、「常勤の勤務医」を探す求人市場には最初から出てきません。

2つめは、都市部です。人口10万人あたりの歯科医師数は、全国平均81.0人に対して東京は116.9人。最も少ない島根・青森は55.3人ですから、2倍以上の開きがあります。研修環境・症例数・生活面で若手ほど都市を選ぶ傾向は、採用のお手伝いをしていても強く感じるところです。

「応募が来ない」の正体は、4段の漏斗です

ここまでの流れを1本につなぐと、こうなります。

  1. 歯科医師は約10万人いるが、院長だけで6.6万人が埋まる
  2. 残る勤務医プール2万人強は大半が中高年層。20代の診療所勤務医は全国2,617人
  3. 若手は大学・病院の中にいて、市場に出てこない。しかもその病院の若手自体が12年で25%減った
  4. 病院を出た若手は矯正・自由診療と都市部へ流れ、一部はそもそも「雇われない働き方」を選ぶ

地方の歯科医院が「常勤の若手ドクター」の求人を出すことは、この漏斗の一番下で待つことを意味します。応募が来ないのは、求人票の書き方が悪いからでも、給与が低すぎるからでもなく、漏斗を通り抜けてくる人がほとんどいないからです。

これは裏を返すと、給与を5万円上げても応募数はほぼ変わらない、ということでもあります。母数が増えないからです。給与競争は、数少ない転職者を他院と取り合う場面では効きますが、「応募ゼロをイチにする」効果は限定的なんですよね。

それでも採用を成立させるために

では打つ手がないかというと、そうではありません。市場が小さいなら、戦い方が変わるだけです。実務でお手伝いしていて効果を感じる考え方を3つ挙げます。

1. 「探す」より「見つけてもらえる状態」を先に作る

数少ない転職検討者は、応募の前に必ず調べます。医院のホームページ、Googleのクチコミ、院長の発信。ここで情報が薄い・古い・荒れていると、応募は候補から静かに外れます。求人を出す前に、調べられたときに答えられる状態を作っておくことが先です。最近は求職者もAIに「〇〇市 歯科医院 勤務」と聞いて調べています。AI検索に拾われる構造(診療内容・教育体制・働き方の明文化)も含めてです。

2. 常勤一本にこだわらない

市場に出てこない若手も、非常勤や週1のアルバイトなら動くことがあります。大学院生や医局所属の先生の外勤です。矯正医のように複数医院を掛け持つ働き方が増えているなら、なおさら「常勤枠」より「関わり方の選択肢」を用意した医院に人は集まります。非常勤で接点を作り、医院を知ってもらった上で、節目のタイミングで常勤の話をする。遠回りに見えて、実際にはこれが最短経路になるケースが少なくありません。

3. 採用は「募集」ではなく「継続活動」と捉える

欠員が出てから求人を出し、埋まったら引っ込める方式は、節目のタイミングでしか市場に出てこない歯科医師とすれ違い続けます。募集を閉じている間も、医院の情報発信と紹介経路(スタッフ・取引先・出身医局とのつながり)は動かし続ける。市場が小さいほど、待ち伏せの継続力が効きます。

まとめ

  • 歯科医師は約10万人いるが、勤務医プールは2万人強
  • 診療所の歯科医師は50歳以上が63.0%、29歳以下は3.0%
  • 若手は大学病院に偏在し、転職市場にはほぼ出てこない
  • その病院・大学の若手も12年で約25%減。歯科医師の総数自体が減少に転じ、増えているのは矯正(若く、フリーランス型も含む)と都市部
  • だから給与だけの勝負ではなく、「見つけてもらえる状態」「関わり方の選択肢(非常勤からの接点)」「継続的な採用活動」に軸足を置く

「若手なんてほぼいない」という現実は、一見すると暗い話ですが、構造を知っていれば打ち手は変わります。少なくとも「応募が来ないのはうちに魅力がないからだ」と消耗する必要はありません。

採用でお困りの際は、貴院の商圏と体制に合わせた具体策を一緒に考えますので、お気軽にご相談ください。


この記事を書いた人

楢原峻(ならはら しゅん)歯科医師・口腔外科専門医

楢原 峻(ならはら しゅん)
歯科医師・歯学博士・日本口腔外科学会 口腔外科専門医。長崎大学病院の顎口腔再生外科に12年勤務した後、株式会社Innovation Careers Lab. 代表取締役。現在も週2回の臨床(親知らず抜歯・インプラント外科)を続けながら、九州を中心に歯科医院の経営・採用の支援をしています。


出典
– 厚生労働省「令和6(2024)年 医師・歯科医師・薬剤師統計」(表11: 年齢階級・施設種別 / 表12: 主たる診療科別 / 図10: 病院従事者の年次推移 / 図12: 都道府県別人口10万対歯科医師数)
– 厚生労働省「令和6(2024)年 医療施設(動態)調査・病院報告の概況」

楢原 峻

Author

楢原 峻

株式会社Innovation Careers Lab. 代表取締役

歯科医師 / 歯学博士 / 口腔外科専門医

長崎大学病院口腔外科で12年間、臨床・研究・教育に従事。医局長・外来医長・病棟医長を歴任。現在は歯科医院を中心に、AI・DX導入支援と経営コンサルティングを提供しています。