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進路に苦労しなかった研修医は1,694人中17人|何がしたいか分からないまま就職先を選ぶ人へ

進路に苦労しなかった研修医は1,694人中17人|何がしたいか分からないまま就職先を選ぶ人へ

何がしたいか、正直まだ分からない。そのまま就職先を選ぼうとしていませんか。

大丈夫です。厚労省が臨床研修の修了者に聞いた調査で、進路選択に苦労はなかったと答えた人は1,694人中17人でした。ほぼ全員、分からないまま選んでいます。

この記事では、分からないまま選んでいい理由と、それでも間違えてはいけない一点だけを書きます。

分からないのは、あなたの能力の問題ではありません

同じ調査で、進路選択に苦労した理由の1位は臨床経験が不足でした。

考えてみれば当たり前です。やりたいことを決めるには、やってみた経験という材料が要ります。ところが歯科の臨床研修は1年で、一連の治療を自分で行った患者数は1〜25人が35.1%で最多、0人という人も2.2%いる。材料が集まる前に、あなたはどうなりたいのと聞かれているのが、いまの研修医です。

分からないのが正常です。問題は、分からないまま選んでも大丈夫な場所と、分からないまま何年も過ぎる場所があることです。

先輩のアドバイスは、30年前の地図かもしれません

数年働いたら開業でしょ、と言われたことがあると思います。統計を見ると、29歳以下で開業している歯科医師は全国に32人、同年代の0.5%です。30代でも13.8%。2000年には30代の45%が開業していたので、四半世紀で3分の1以下になりました。

60代の先生がアンケートでこう回顧しています。私たちの時代は、3、4年目での開業が一般的でしたね、と。あの常識は、歯科医院が足りなかった時代のものです。

つまりあなたたちは、開業を当然のゴールに置けない最初の世代です。だから最初の職場の意味が、上の世代とは違います。開業までの腰掛けではなく、腕と方向が決まる場所そのものです。

ただし、求人票では選べません

どの医院も教育体制あり、症例数多数と書いています。大手の教育プランを並べても、1〜2年目は保険の基礎、3〜4年目は自費、5年目からマネジメントと、ほぼ同じ3段構成でした。紙の上では区別がつきません。

一方で、歯科医師の平均勤続年数は5.6年。医師7.5年、看護師9.4年と並べて医療系職種で最短です。先輩たちが選び間違え続けている証拠がこの数字です。

あなたへの求人倍率は8.72倍。大卒全体の1.50倍に対して圧倒的な売り手市場で、選べる立場です。なのに、選ぶ物差しを誰も教えてくれない。

物差しは3つだけです

1つ目。手元を見てくれる人がいるか

歯科の診療は個室で、ユニットに1人です。誰にも見られない場所では、5年経っても自分が上手くなったのか分かりません。そして将来のあなたは、それを取り戻すために自腹で65万円のセミナーに行くことになります。実際、医院が教育に出すお金は年平均32.6万円、勤務医が自腹で払うコースは1本65万〜156万円。先輩たちはいま、見てもらう時間をお金で買っています。

見学で確認するのはここです。院長が、勤務医の処置をどのくらい見ているか。

2つ目。任される順番を、数字で言えるか

面接で症例はやらせてもらえますかと聞くと、答えは必ず実力次第で任せますです。この答えは反論も検証もできません。聞くべきは、入って3か月の人はいま何をやっていますか、です。浸麻、単純抜歯と処置名と時期で答えられる医院と、言葉に詰まる医院に分かれます。1日の担当患者数も聞いてください。数字で答えられる医院は、若手の成長を数えている医院です。

3つ目。詰まったとき、誰がどう引き取るか

詰まらない歯科医師はいません。聞きにくい質問ですが、ちゃんと設計している医院ほどこの質問を喜びます。私が大学で研修医に抜歯を教えていたときは、交代の基準は処置時間30分超と、切削が深すぎるときの2つだけと決めていました。技術が足りないことは交代の理由にしない。だから代わられても恥にならず、研修医は全員納得していました。こういう仕組みの有無は、入る前に聞けば分かります。

そのうえで、私からの助言です

最初は患者数の多いところで、保険診療をとにかく回してください。手が動かないうちから自費や矯正に寄せても、土台がないままになります。

医院は、特色のあるところを選んで、その院長のやり方に一回染まってみる。型がないまま自己流で広げると、後で戻れなくなります。ただし癖が強すぎる院長は別です。ここは見学で自分の目で判断してください。

規模は、歯科医師が5〜6人いるところを勧めます。院長と自分だけの医院だと、比較する相手がいないので、自分が上手いのか普通なのかも分からないまま数年が過ぎます。何がしたいか見つけるにも、横に並ぶ相手が要ります。

大きなチェーンは、診療が悪いという意味ではなく、構造の問題で勧めません。理事長以外はほぼ全員が勤務医で、人数が増えるほど、あなたを見る目は院長ではなく中間管理職になります。1つ目の物差しが構造的に満たされにくいのです。

大学に残る価値があるのは、研究がしたい人と、矯正・口腔外科・歯科麻酔のように外では触れない領域をやりたい人です。認定をさらっと取りたいだけなら、大学に残るメリットは薄いと思います。

焦らなくていい、という数字も置いておきます

保険診療は、普通のセンスがあれば5年でひととおりできるようになります。浪人して30歳で歯科医師になっても、大学に5年いて35歳でも、そこから十分間に合います。私は口腔外科に12年いて、いちばん役に立っているのは1年目の、怒られないのに必死だった時期の経験です。

何がしたいかは、先に決まるものではありません。順序は逆で、動いた結果を見て、自分はこれがやりたかったのかと分かります。だから最初の数年は、見てもらえて、順番があって、詰まったら引き取ってもらえる場所で、がむしゃらに働く。方向と適性は、その中で見つかります。

迷ったら

就職先選びで迷ったら、個別に相談を受けています。あなたの状況を聞いたうえで、上の3つの物差しでどう見るかを一緒に考えます。

参照

厚生労働省「歯科医師臨床研修修了者アンケート」(令和元年度・令和6年度)/「令和6年 医師・歯科医師・薬剤師統計」/「平成12年 医師・歯科医師・薬剤師調査」/「令和6年 賃金構造基本統計調査」/日本私立歯科大学協会 求人倍率調査


この記事を書いた人

楢原 峻(ならはら しゅん)

Innovation Careers Lab. 代表。歯科医師・歯学博士。口腔外科に12年在籍し、日本口腔外科学会専門医を取得。医局長・病棟医長として研修医教育と病棟運営を担当し、研修医が3か月で抜歯を担当できるようになる教育プログラムを設計・運用した。現在も臨床に立ちながら、歯科医院の組織づくり・採用・経営支援を行っている。有料職業紹介事業許可 40-ユ-301490。

楢原 峻

Author

楢原 峻

株式会社Innovation Careers Lab. 代表取締役

歯科医師 / 歯学博士 / 口腔外科専門医

長崎大学病院口腔外科で12年間、臨床・研究・教育に従事。医局長・外来医長・病棟医長を歴任。現在は歯科医院を中心に、AI・DX導入支援と経営コンサルティングを提供しています。