代表コラム

中小企業がChatGPTを「使ってみた」で終わる本当の理由

中小企業がChatGPTを「使ってみた」で終わる本当の理由

「ChatGPT、入れてみたんですけど」

この半年で、何度この言葉を聞いたかわかりません。

歯科医院の院長、管理会社の会長、地方の製造業の社長。業種はバラバラなのに、続く言葉はいつも同じです。

「最初はすごいと思ったんですけど、結局みんな使わなくなりました」

社員がサボっているわけでも、ChatGPTがダメなわけでもありません。原因はもっと手前のところにあります。そして、ほぼ全社、同じところで止まっています。


「使い方がわからない」のではなく「使いどころがわからない」

よく「社員がAIの使い方を知らないから定着しない。研修しましょう」と言われます。

でも、現場に入ってみると、社員の多くはChatGPTの触り方くらい知っています。聞いてみると「レシピ調べた」「旅行の計画立てた」「子どもの自由研究の手伝いに使った」という人が結構います。

プライベートでは使っているんです。なのに仕事では使わない。

なぜかというと、「自分の業務のどこにAIを挟めばいいのか」が見えていないからです。ChatGPTの操作方法と、自分の仕事のどこに組み込むかは、全然違う話です。ここを混同したまま「活用推進」をやっても、うまくいきません。


現場で見てきた、止まる3つのパターン

この1年で関わった企業を振り返ると、だいたいこの3つのどれかで止まっています。

1. 社長だけが盛り上がっている

社長がどこかのセミナーでAIの話を聞いてくる。翌週「うちもChatGPT使おう」と号令が出る。社員はアカウントを作る。1週間後、誰も開いていない。

社長は「なぜ使わないんだ」と言います。社員は「何に使えばいいかわからない」と言います。ずっと噛み合わないまま、いつの間にか話題にすら上がらなくなります。

社長が見ているのは「AIで生産性が上がった企業の事例」で、社員が見ているのは「今日の自分のタスク」です。この距離を埋める人がいないと、号令だけで終わります。

2. 「今のやり方でも回ってるし」

これが一番多くて、一番手強いです。

既存の業務って、非効率でも回っているんです。紙の出勤簿を手計算している総務の方は、それが自分の仕事だと思っています。「AIで自動化できますよ」と言っても、「じゃあ私は何をすればいいんですか」という不安のほうが先に来ます。

業務を変えるというのは、今までのやり方を否定することでもあるので、ツールの話だけでは解決しません。組織として「変えていいんだ」という空気がないと、現場は動けません。

3. 一回試して「微妙」で終わる

ChatGPTに議事録を要約させてみた。間違いが何箇所かあった。「やっぱ使えないね」で終わり。

気持ちはわかります。でも、AIの出力は指示の出し方で全然変わります。最初の出力がイマイチだったときに「聞き方を変えてみよう」と思える人は定着しますし、「やっぱダメだ」と閉じる人はそこで止まります。

この差は本人のITリテラシーというより、「AIってそういうものだよ」という前提を共有できているかどうかの問題です。


ツールを渡しただけでは、何も変わりません

3パターンに共通しているのは、「ChatGPTを入れた」というところで止まっていることです。

ツールを渡して「あとは各自で活用してください」では定着しません。これはChatGPTに限った話ではなくて、10年前にSlackを入れた企業でも、5年前にkintoneを入れた企業でも、同じことが起きていました。

定着させるには、設計が必要です。

やることは3つだけです。

どの業務に使うか決める。 「好きに使って」ではなく、「まずこの業務で使おう」と決めます。請求書の確認なのか、メールの下書きなのか、日報なのか。一つに絞るほうがうまくいきます。

すぐ使えるテンプレートを用意する。 「AIに聞いてみて」ではなく、「このプロンプトをコピペして、ここに自分のデータを入れて」くらい具体的な手順を渡します。最初は何も考えなくても使えるレベルにしておくのがコツです。

感動体験を作る。 モノを売るときと同じです。人が動くのは、理屈ではなく「うわ、すごい」という体験があったときです。「30分かかってた作業が5分で終わった」。この感動が一回でもあれば、あとは勝手に使い方を広げていきます。逆にこの体験がないまま「AI活用推進!」と旗を振っても、誰も動きません。


研修だけでは定着しない理由

「AI研修やりましょう」という話もよく出ます。外部講師を呼んで、半日か1日、ChatGPTの使い方を教える。

悪いことではないです。ただ、研修だけで定着した企業を、正直なところ自分はまだ見たことがありません。

研修って「知識」は渡せるんですけど、定着に必要なのは「感動」と「習慣」なんです。

「え、こんなことできるの」という感動がないまま知識だけ渡しても、人は動きません。ジムと同じです。入会した日はやる気に満ちてます。でも1ヶ月後も通っている人は2割くらいです。頭でわかっていることと、体が動くことは別の話です。

だから、研修よりも「毎日の業務フローの中に、AIを使うステップを組み込んでしまう」ほうが確実です。仕組みにしてしまえば、やる気に頼らなくて済みます。


私がやっていること

AI導入の相談を受けたとき、私がやっているのは3つだけです。

まず、現場に入ります。社長の話だけ聞いても実態はわかりません。実際に手を動かしている人の横に立って、業務を見ます。何に時間がかかっているか、何を面倒だと感じているか。本人も気づいていない非効率が、見ると結構あります。

次に、一番効果が出そうな業務を1つか2つ選びます。全部を一気に変えようとすると大体うまくいかないので、「まずはこれだけ」と絞ります。

最後に、翌日から使えるものを作ります。プロンプトのテンプレートで済む場合もあれば、簡単なシステムを組む場合もあります。大事なのは、明日の業務が楽になること。3ヶ月後に納品される立派なシステムではなく、まず目の前の作業を一つ軽くします。

やっていることは地味ですけど、これが一番定着するやり方だと思っています。


「使ってみた」の先に行くために

ChatGPTは道具です。道具を渡されただけでは、使いこなせないのが普通です。

包丁を渡されて「好きに料理して」と言われても、初めての人は困ります。でもレシピがあれば作れます。一回作ってみれば、次は自分なりにアレンジもできます。

中小企業のAI導入も同じで、必要なのはツールよりも、最初のレシピと、一緒にキッチンに立ってくれる人です。

「使ってみたけど続かなかった」という会社は、ツールが悪いのではなくて、設計が足りていなかっただけです。そこさえ整えれば、会社の規模や業種に関係なく、AIは普通に業務に入っていきます。


株式会社Innovation Careers Lab. 代表取締役 楢原 峻
歯学博士/口腔外科専門医

楢原 峻

Author

楢原 峻

株式会社Innovation Careers Lab. 代表取締役

歯科医師 / 歯学博士 / 口腔外科専門医

長崎大学病院口腔外科で12年間、臨床・研究・教育に従事。医局長・外来医長・病棟医長を歴任。現在は歯科医院を中心に、AI・DX導入支援と経営コンサルティングを提供しています。