歯科医院でのZ世代勤務医の育て方叱らない・情熱を持たない・でも代わりに動いてくれる上司を、性格ではなく設計でやる
金間大介さんの『静かに退職する若者たち』(PHP新書)に、若手が求める上司像の調査が3つ並んでいます。数字で見ると、正直に言って、昭和や平成初期生まれの私たちからすると、とんでもない世の中になったなと思います。この子はこの先どうやって生きていくんだろう、と感じる若手も多い。
それでも、医院は若手を採って育てないと回りません。今日は勤務医の話に絞ります。衛生士や受付は別の回に書きます。若手が求める理想像を数字で確認したうえで、私が大学病院で研修医に埋伏抜歯を教えていたときに何をしていたかを、正直に書きます。性格でなく設計の話です。
若手が理想とする上司は、この6つでした
エン・ジャパンの1万人調査(2019年)、日本能率協会の新入社員意識調査(2022年)、SHIBUYA109 lab.のZ世代調査(2023年・411人)。出所の違う3つのデータをまとめると、理想の上司はこうなります。
-
仕事について丁寧に教えてくれて
-
若手の意見や要望に対し、聞くだけでなく自ら動いてくれて
-
いかなる場合でも叱るなんてとんでもなく
-
仕事の結果に決して情熱など持たず
-
仕事を振っておいて見守るだけなんてあり得ない
-
友だち感覚で「ご飯行こう」はなしで
数字も強烈です。新入社員が理想とする上司の1位は、2012年から2022年までどの調査年でも「仕事について丁寧な指導をする」で、2022年は約7割。この10年で約20ポイント増えています。「場合によっては叱ってくれる」は10年で半減。「仕事の結果に対する情熱を持っている」は2012年に3位だったのが、2022年には10位付近まで落ちました。「仕事を任せて見守る」は100人に5人。「仕事の成果にこだわる」上司にいたっては、20代から40代以上まで全世代で最下位、100人に6人です。
SHIBUYA109の調査でも上位3つは「分かりやすい言葉で説明してくれる」53.3%、「丁寧に教えてくれる」46.7%、「気軽に相談しやすい」45.3%。「友達のように接してくれる」は14.4%、「食事に頻繁に誘ってくれる」は1割を切ります。
若手が欲しいのは、リーダーでも兄貴分でも職人気質の師匠でもない。説明が上手で、感情が安定していて、自分の代わりに動いてくれる人です。
しかもこれで「ゆるい職場」は嫌だと言います。リクルートワークス研究所の調査で、大手企業の入社3年目までの若手のうち36.4%が自分の職場を「ゆるい」と感じ、「別の会社で通用しなくなるのではないか」という不安を持つ若手は48.6%です。叱られたくない、でも成長させてほしい。放置されたくない、でも詰められたくない。
この6つ、院長先生はどう受け止めますか
若手の勤務医を雇っている院長先生の周りでは、反応が2つに割れます。
ひとつは「そんな上司はやらない」。今もこの6つを守っていない院長先生は多いですし、守る気もない、という方もいます。私も気持ちは分かります。
もうひとつは、意識的に変えて全部守っている院長先生。叱らない、飲みに誘わない、感情を出さない、要望には自分が動く。それなのに勤務医が笑顔のまま辞めていく。面談では「大丈夫です」と言っていたのに、です。
どちらの院長先生にも、同じことを言っています。この6つは性格で守るものではなくて、設計で満たすものです。若手の要求を翻訳すると、負荷と安全を両方とも上司側で設計してほしい、ということだからです。
私が大学でやっていた設計
大学病院で、研修医が3か月で埋伏抜歯をできるようになる仕組みを回していました。中身はこうです。
術前レポートを出させる。 どこをどう切開するか、骨をどう削るか、どう分割するかを、手術前に紙に書かせてイメージさせてから入ります。これはいちばん大事にしていました。準備なしで患者さんの口に入るのは、患者さんに失礼だからです。
準備不足の研修医には執刀させない。 これもルールでした。叱るのではなく、そもそも入れない。
基準を超えるまで手を出さない。 交代の基準は処置時間30分超と分割が深すぎるの2つだけ。埋伏抜歯は一般的に難しい処置なので、途中で代わられても恥ではありません。研修医の本音は「自分で抜きたい。でも、はまったら助けてくれ」です。だから、最初から代わってほしそうな研修医でも、基準を超えるまでは絶対に手を出しませんでした。危険だと感じたときだけは別です。
関門は少し手伝う。 粘膜剥離がいつまでもできない、というような簡単なところでつまずいた場合に、それだけの理由で30分待たせることはしませんでした。少し手を出して剥離できたら、次に進ませる。処置には関門がいくつかあって、そこを越える手助けだけはしました。患者さんの負担にならず、本人が成長できるように。
そしてもうひとつ。フィードバックは、私からではなく研修医の方から取りに来ました。 来ない人はいませんでした。当時は当たり前だと思っていましたが、いま若手の調査を読むと、これは珍しいことのようです。理由を考えると、術前に自分の計画を書いた人は、終わったあとに答え合わせをしたくなるからだと思います。何も書かずに入った人には、聞くべきことがありません。
6箇条に当てはめると
若手が求める6つを、この設計に重ねてみます。
丁寧に教える、は術前レポートへの返しです。自ら動いてくれる、は関門での手助けです。叱らない、は準備不足の人をそもそも入れないので叱る場面がない、ということです。情熱を持たない、は情熱を口で言わず基準に載せる、ということです。見守るだけはあり得ない、は基準を超えたら私が入る、ということです。友だち感覚のご飯は、要りませんでした。
つまり6箇条は、上司の性格を変えなくても満たせます。設計があれば、昭和生まれの私でも「若手が理想とする上司」の要件は結果的に満たしていたことになります。私が優しかったからではありません。
院長先生が疲弊する理由
守っていない院長先生には、この6つを性格でやろうとすると疲れる、と言いたいです。守っている院長先生には、性格でやっているから疲れて、しかも辞められる、と言いたいです。
一般企業なら人事部があり、研修制度があり、斜めの関係の先輩がいて、負荷と安全の設計を分担できます。歯科医院は院長がひとりで、診療をしながら、採用も教育も評価も面談も全部やっています。若手が求める「設計者」の役割を、ユニットの合間に個人の性格でカバーしようとしている。これは人格の問題ではなく、ひとりで設計者をやる構造の問題です。
医院に置くなら
大学でやっていたことを、そのまま医院サイズにするだけです。
勤務医に新しい処置を任せる前に、切開線でも形成の順番でも、手順を本人に書かせる。それを見てから任せる。書けない人にはまだ任せない。どこまでは本人がやり、どこからは院長が入るかの線を、処置ごとに先に決めておく。関門でつまずいたら少しだけ手を出して次に進ませる。そして、書かせておけば、フィードバックは向こうから取りに来ます。
設備も外部講師も要りません。要るのは、院長先生が「優しい上司をやる」か「厳しい上司をやる」かで悩むのをやめて、設計者に役割を持ち替えることだけです。
心当たりがあれば
-
若手の理想像を見て、正直とんでもないと思った
-
叱っていないのに、勤務医の面談で本音が出てこない
-
辞める勤務医は決まって、直前まで笑顔だった
このあたりに覚えがあれば、コメントに「勤務医」と送ってください。まず自院で「手順を書かせてから任せる」をどの処置から始めるか、一緒に決めるところからやります。
▼参照
金間大介『静かに退職する若者たち — 部下との1on1の前に知っておいてほしいこと』(PHP新書)/エン・ジャパン「1万人が回答!『上司と部下』意識調査」(2019)/日本能率協会「2022年度 新入社員意識調査」/SHIBUYA109 lab.「Z世代の仕事に関する意識調査」(2023年1月・n=411)/リクルートワークス研究所(大手企業・入社3年目までの若手調査、2022)
Author
楢原 峻
株式会社Innovation Careers Lab. 代表取締役
歯科医師 / 博士(歯学) / 日本口腔外科学会 口腔外科専門医
長崎大学病院口腔外科で11年間、臨床・研究・教育に従事しました。2020年から2023年まで医局長を務め、現在は歯科医院を中心に、AI・DX導入支援と経営コンサルティングを提供しています。

