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歯科医院、自走する組織の作り方。栗山監督に学ぶ任せ方

2023年WBCで栗山監督は、相手に合わせて任せ方を変えていました。歯科医院でも、何を任せ、どんなときに相談してもらうか。一つの仕事から考えます。

歯科医院、自走する組織の作り方。栗山監督に学ぶ任せ方

「憧れるのをやめましょう」。2023年WBC決勝前、仲間に呼びかけたのは大谷翔平選手でした。監督が全部言わなくても、選手がチームに必要な言葉を出す。スタッフ同士で考え、動いてくれる医院を目指すなら、栗山監督の任せ方を見てみたいところです。

大谷選手が話した決勝前、監督は何をしていたか

アメリカとの決勝を前に、大谷選手がチームメイトへ語りかける場面は、公式ドキュメンタリーでも公開されています。

試合では、最後に大谷選手がマイク・トラウト選手を三振に打ち取りました。日本は3対2で勝ち、7戦全勝で優勝しています。

選手たちが声をかけ合い、自分の役割を果たす。上司から指示を受けるまで止まっている組織とは、違う光景です。

ただ、選手が自分で動いている場面だけ見て、監督は何も言わずに任せていた、と受け取ると話が変わります。

栗山監督は大会後のインタビューで、大谷選手については、登板できるという意思が伝わってくるのを待っていたと話しています。一方、不振だった村上宗隆選手には、面談や電話、メールで自分の考えを伝えていました。

同じチームの中で、待つ相手もいれば、話しかける相手もいた。全員との距離を一律に広げたわけではありません。

大谷選手のように、本人から意思表示があるまで待てる相手がいる。一方で、監督の考えが伝わるよう、こちらから連絡を取る相手もいる。表に見える行動だけなら、前者は任せているように見え、後者は口を出しているようにも見えます。

けれど、関わる回数だけでは、よい任せ方かどうかは分かりません。必要な説明が足りない人には、話す時間を取る。自分で判断できる人には、答えを急がせずに待つ。相手の状態を確かめて初めて、どれくらい関わればよいかが決まります。

自走する組織を考えるとき、院長が何も言わなくても仕事が進む状態を思い浮かべるかもしれません。でも、そこだけを目指すと、話しかけることや相談を受けることまで減らしたくなります。説明しなくなった結果、スタッフが迷っているなら、院長の手は離れても仕事は進みません。

栗山監督の話から考えたいのは、どうすれば指示を減らせるかよりも、目の前の人が力を出すために何が必要かです。人によっては、任せる前にもう少し話す必要がある。別の人には、細かく聞くのをやめて、本人が決める時間を取る必要があるのでしょう。

  • 大谷翔平選手
    登板に向けた本人の意思を待つ
  • 村上宗隆選手
    面談、電話、メールで考えを伝える

歯科医院でも、主任と新人に同じ任せ方をする必要はないはずです。経験も、知っている情報も、迷っていることも違います。

村上選手を信じても、打順は変えていた

準決勝のメキシコ戦では、村上選手は最後の打席に入るまで4打数無安打でした。日本が1点を追う9回裏、走者を置いた場面で打席が回ってきます。

村上選手は逆転サヨナラの二塁打を放ち、日本は6対5で勝ちました。

信じて使い続けたから打てた、とまとめたくなる場面です。でも、栗山監督は村上選手を4番から5番へ動かしていました。打順を変えたことについて、自分の考えを本人に伝えたとも説明しています。

選手への期待を持ちながら、任せる役割は調整していた。成績が出るまで何も変えずに待ち続けた、という話ではありません。

医院で仕事を任せてうまく進まなかったときも、選択肢を増やせます。担当を外す以外に、範囲を狭める、途中で一度確認する、必要な情報を渡す、といった直し方があります。

たとえば新人教育を任せるなら、教える内容の確認まで任せるのか、予定を組むところまで任せるのか。すべてを一度に任せると難しくても、予定の調整はできる人かもしれません。

うまくいかなかった仕事を分けて見れば、本人ができた部分も残ります。担当を外して先生が全部引き取る前に、どこで止まったかを確かめたいところです。

新人教育の予定を組む仕事で考えてみます。教える項目を並べることはできた。担当する先輩も決まった。ただ、診療の予約と重なってしまい、練習の時間が取れなかったとします。

ここで院長が予定を全部組み直せば、その月の教育は進むかもしれません。ただ、任された人は、診療と教育の時間をどう調整するかを知らないままです。次の新人が入ったときにも、同じところで困る可能性が残ります。

まず確かめたいのは、担当者が何を知っていたかです。練習に使える時間帯は決まっていたのか。予約の調整を誰に相談すればよいかは分かっていたのか。先輩の担当を変える権限はあったのか。本人の段取りが悪かったと判断する前に、確認できることがあります。

予定を組む仕事は引き続き任せて、時間帯の調整だけ院長と一緒に行う方法もあります。どの条件を見て調整したかを伝えれば、次の予定を組むときに使えます。できなかった部分を一緒に確かめることで、すでにできている部分まで取り上げずに済みます。

役割を小さくすることも、本人への期待を下げることと同じではありません。今はここまでを頼みたい、ここができたら次も任せたい、と伝える。任せる範囲を変える理由が分かれば、担当者も次に何を覚えればよいかを考えられます。

任せたいのに、自分と違うやり方が気になる

先生が診療している間に、スタッフ同士で相談して仕事を進めてほしい。けれど、途中経過を見て、先生なら別のやり方を選ぶと感じたらどうするか。

自分なら先に確認する。自分なら別の順番にする。自分なら、その業者には頼まない。

一つずつに理由はあるはずです。けれど、担当者が選んだことを毎回直していたら、任せられる範囲は広がりません。次回も先生に確認してから進めるほうが、やり直しを避けられます。

たとえば、院内ミーティングの進行を任せたとします。話し合う内容は揃っていて、必要な人も参加できる。担当者は、先に各自の意見を聞いてから、最後に結論を決めようとしています。院長は、最初に自分が方針を説明したほうが早いと感じる。

どちらの進め方にも理由があります。短い時間で方針を伝える会議なら、先に院長が話すほうが合うかもしれません。スタッフが何に困っているかを知る会議なら、先に意見を聞く意味があります。進め方を直す前に、今回の会議で何を決めたいのかを共有できていたか、確かめる必要があります。

目的が揃っていて、時間内に必要な話ができる見込みがあるなら、一度その進め方でやってもらう。終わってから、決めるべきことが決まったか、話しにくそうな人はいなかったかを一緒に振り返れます。始める前に院長の段取りに変えてしまうと、担当者の考えを試す機会はなくなります。

任せる側にとって難しいのは、自分のほうが早くできそうなときです。やり方が見えているのに待つのは、もどかしい。忙しい日なら、自分で終わらせたくなるのも無理はありません。

ただ、繰り返す仕事については、今日かかる時間だけでなく、次回に誰が判断できるようになるかも考えたいところです。毎回院長が仕上げるほうが早いとしても、その状態が続けば、次回も院長の時間が必要になります。

栗山監督は、WBCに向けたインタビューで、代表に選ばれる選手には自分のやり方があると話しています。伝え方や根拠に加え、どの原則を誰に使うか、誰から伝えるかまで考える必要がある、と説明していました。

経験を積んだスタッフにも、自分なりの段取りがあります。医院が求める結果を出せているなら、先生と違う手順であることだけを理由に直さず、続けてもらえる部分を探せます。

もちろん、診療の安全や資格に応じた業務の範囲は守ります。まずは備品の発注や会議の準備など、任せる条件と結果を確かめやすい仕事から始められます。

  • 決めていた条件を満たしていない
    条件は伝わっていたか、何が足りなかったか
  • 条件を満たして仕事が終わっている
    先生の好みだけで直そうとしていないか

大谷選手が入ってくるのを待つわけにはいかない

侍ジャパンは、各チームの一流選手が集まる代表チームです。新人が入る医院と、最初から同じ任せ方はできません。大谷選手との関係を、そのまま入職直後のスタッフに当てはめるのも無理があります。

仕事の手順も、判断に必要な情報も渡していないまま、自分で考えて進めてほしいと伝えても、本人には何を選べるのかが分かりません。

経験の浅い人とは、最初は一緒に進めます。手順を覚えたら一部分を任せ、結果を確認してから範囲を広げる。主任なら、やり方まで指定せず、目的と外せない条件を確認して進めてもらえます。

同じ人でも、慣れている仕事と初めての仕事では変わります。勤続年数だけで一括して任せると、経験のない仕事まで引き受けることになります。

長く勤めている主任でも、スタッフ間の勤務調整には慣れていて、採用や新人教育の計画は初めてということがあります。診療を支える力があることと、あらゆる管理業務ができることは別です。主任だから分かるだろう、と説明を省くほど、本人が聞きにくくなる場合もあります。

任せる前には、似た仕事をしたことがあるか、何が分かれば始められるかを聞いてみる。その答えによって、最初から一人で進めてもらうのか、途中で見せてもらうのかを決められます。肩書きに合わせて仕事を渡すだけでは、必要な準備を見落とします。

もう一つ気をつけたいのは、院長への確認を主任がすべて引き受ける形です。院長に質問が来なくなっても、主任が毎日質問に答え続け、ほかの仕事を終えられなくなっているなら、医院全体で判断できる人が増えたとは言えません。

主任に任せるときには、もともとの仕事をどこまで続けるかも一緒に考えます。診療も教育も発注も今までどおり、そのうえで全員の相談を受けてほしい、という頼み方では時間が足りません。新しく任せる仕事に合わせて、ほかのスタッフが引き受けられる業務を確かめる必要があります。

主任が休む日でも、いつもの発注は担当者が判断できる。分からないことがあれば、主任以外にも相談できる人がいる。任せる先を一人増やすだけでなく、仕事ごとに判断できる人を育てていけば、特定の人に確認が集中する状態を少しずつ変えられます。

担当者が迷ったときに相談できる相手も必要です。質問したことを、自走できていない証拠にしてしまうと、分からないまま進めるほうを選ばせてしまいます。

相談を受けたら、次回も同じ確認が要るのかまで考える。必要な情報を見られるようにする、予算の範囲を決めるなど、担当者が次に判断できる条件を整えていきます。

相談の受け方にも、次につながる工夫ができます。すぐに答えを出す前に、どこまでは決まっていて、何に迷っているのかを聞く。候補があるなら、それぞれのよい点と気になる点を話してもらう。本人が考えたところまで分かれば、足りない情報だけを補えることもあります。

ただし、何も教えていない人に毎回「あなたはどう思う?」と返すだけでは、答えを探させているだけになりかねません。初めての仕事なら、まず手順と判断の理由を説明します。考えられるだけの材料を渡したうえで、本人の意見を聞く順番です。

相談した内容を残すときも、院長の答えだけでは足りないことがあります。今回はなぜその数量を選んだのか。なぜ普段と違う仕入れ先を使ったのか。条件が変わったら、前回の答えをそのまま使えないからです。判断した理由まで分かれば、次に似たことが起きたとき、自分で選べる範囲が広がります。

  • 仕事の手順を知らない
    一緒に進め、できる部分を確認する
  • 手順は分かるが判断に迷う
    選べる範囲と相談する条件を決める
  • 条件を理解し、仕事を終えられる
    進め方を任せ、結果と困った場面を確認する

先生が毎回判断している仕事を、一つ任せてみる

ここまで読んで、すでに発注もミーティングもスタッフに任せている、と思った先生もいるかもしれません。そこで確かめたいのは、作業を担当してもらっているのか、何をするか決めるところから任せているのかです。

注文画面に入力するのはスタッフでも、品目も数量も院長が毎回決めているなら、判断する仕事は院長が担当しています。それ自体が悪いわけではありません。ただ、院長が忙しいと発注できない状態を変えたいなら、入力する人を増やすだけでは解決しません。

いつもの品目の補充なら、担当者が在庫と使用量を見て数量を決められるか。そのために必要な記録を見られるか。仕事を任せるという言葉を、担当者が具体的に何を決められるようになるのかまで掘り下げて考えます。

まずは、毎回似た確認が来る仕事を一つ選んでみてください。

発注を例にするなら、任せる前に決めるのは、何を担当者が選べるかと、どんなときに相談するかです。品目、数量、仕入れ先のうち、どこまで選べるのかを具体的にします。

予算や品質、欠品を避けたい理由も共有しておく。注文を出す前に、先生しか知らなかった条件を担当者へ渡します。

たとえば事務用品の発注を任せるなら、毎回すべての品目について許可を取る運用にする必要はありません。定番品を決めた数量まで補充するのは担当者が判断する。初めて買う物や、決めた予算を超える注文は相談する。医院の事情に合わせて決め、その内容を担当者が見返せるようにしておきます。

品切れのときは代替品を選んでよいのか。別の業者に頼んでもよいのか。安くなるならまとめ買いしてよいのか。普段の注文では問題にならなくても、少し条件が変わると迷う点が出てきます。最初から例外を全部決める必要はありませんが、迷ったときの連絡先は決めておけます。

院長が診療中で答えられない場合も考えておきます。今日中に決める必要があるのか、診療後まで待てるのか。それによって相談の仕方は変わります。急ぎの相談と、あとでまとめて確認できることを分けるだけでも、担当者は声をかけるタイミングに迷いにくくなります。

もう一つ、任せた仕事を振り返る時期も決めておきます。

確認が必要になったのはどこか。情報が足りなかったのか、本人にはまだ難しかったのか、先生があとから条件を足したのか。止まった理由が違えば、次に変えることも違います。

振り返りでは、院長が気になった点だけを話すのではなく、担当者が迷った場面も聞きます。院長からは順調に見えていても、本人は何度も調べたり、ほかの人に助けてもらったりしていたかもしれません。結果だけでは、次も一人でできるかは分かりません。

反対に、途中で相談があったとしても、その後は本人が判断して終えられたなら、任せられた部分があります。相談の回数がゼロだったかより、どこまで自分で決められたかを確かめます。まだ説明が必要な部分と、次から任せてよい部分を分ければ、同じ説明を最初から繰り返さずに済みます。

そして、決めた条件では十分でなかったと分かったら、条件を直します。最初の頼み方が曖昧だったなら、院長からもそう伝える。担当者だけに反省を求めず、任せた側が次に何を変えるかまで決めることで、振り返りを次の仕事に使えます。

先生のやり方と違っても、決めた条件を満たして仕事が終わったなら、次も任せてみる。難しかった部分だけ一緒に確認する。

WBCの優勝を、任せ方だけで説明することはできません。それでも、栗山監督が相手を見て関わり方を変えていた点は、医院でも参考になります。

自分で考えてほしいと言った相手に、何を決めてよいと伝えたか。次に同じ仕事が来たとき、先生に聞かずに進められる部分が増えているか。一つの仕事から確かめていくと、医院に必要な教え方と任せ方が具体的になります。

任せ始めるときに迷いやすいこと

スタッフによって任せ方を変えると、不公平になりませんか。

守る条件は共通にして、経験や仕事の習熟に応じて任せる範囲を変えます。何ができれば範囲を広げるのかも伝え、先生の好き嫌いで決まったように見える運用を避けます。

自分でやるより時間がかかります。

最初の説明と振り返りには時間がかかります。繰り返し発生する仕事から選べば、次回も先生が全部判断するのか、任せられる部分が増えたのかを比べられます。一度きりの仕事まで無理に任せる必要はありません。

医院の役割分担を相談したい先生へ

仕事を任せても、最後は先生の確認待ちになる。

主任に仕事が集まり、主任が休むと判断が止まる。

マニュアルは作ったけれど、同じ質問が繰り返される。

ICLでは、歯科医院の経営と組織の相談を受けています。ICL公式LINEに、合言葉「自走」とお送りください。

出典

医院での運用例は、本稿の提案です。特定の医院で実際に起きた出来事を記載したものではありません。

楢原 峻

Author

楢原 峻

株式会社Innovation Careers Lab. 代表取締役

歯科医師 / 博士(歯学) / 日本口腔外科学会 口腔外科専門医

長崎大学病院口腔外科で11年間、臨床・研究・教育に従事しました。2020年から2023年まで医局長を務め、現在は歯科医院を中心に、AI・DX導入支援と経営コンサルティングを提供しています。

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