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歯科医師オワコン説 — 医療費4年連続増・平均年収は上場企業より上、を実数で検証する

歯科は供給過剰でオワコン、3割は国試に落ちる。検索に並ぶ極論を、歯科医療費・年収・国家試験合格率の公的な実数で検証します。医師の方から質問箱に届いた、歯学部進学の相談へのお返事です。

歯科医師オワコン説 — 医療費4年連続増・平均年収は上場企業より上、を実数で検証する

先日、noteの質問箱にこんな質問が届きました。

質問箱に届いた質問(原文スクリーンショット)

医師の方が、親戚に歯学部を勧めて、ネットの極論に阻まれている。質問箱では短くお答えしましたが、私は歯科医院専門の経営コンサルタントで、複数の医院の決算書を毎月見ています。あらためて公的な数字を集め直したら、検索結果と現場のズレがはっきり見えたので、実数を並べてお返しします。

歯科医療費は4年連続で増えています

白状すると、私が歯学部を受験した20年ほど前も、歯科はオワコンだと言われていました。薬学部が全国に次々と新設されていた時期で、歯学部は避けられる側でした。あれから20年、私はその避けられていた業界で口腔外科医になり、経営コンサルタントとして医院の決算書を見る側に回りましたが、業界は消えるどころか市場を広げています。

歯学部はやめとけ、の根拠としてよく出てくるのが、人口が減るから患者も減る、という話です。実数を見ます。

厚生労働省の集計では、令和6年度の歯科医療費は3兆3,354億円で、前年度から4.2%増えました。患者の来院を数えるレセプト件数も、令和2年度の2億1,769万件から令和6年度の2億5,642万件まで、4年連続で増えています。少子化と保険点数の抑制が同時に進むなかで、患者数も市場も広がっています。

歯科医療費の推移。令和6年度は前年度比+4.2%で4年連続増

背景ははっきりしています。高齢になっても歯が残る人が増え、歯周病の管理や訪問診療の需要が伸びました。歯科は、子どもの虫歯を治す仕事から、大人の歯を生涯守る仕事に変わっています。

勤務歯科医の平均年収は、上場企業の平均より284万円高いです

歯学部を出た先の実入りを、他の進路と並べます。

上場企業3,123社の平均年間給与は779万円です(2025年度・東京商工リサーチ集計)。勤務している歯科医師の平均年収は1,063万円(令和6年賃金構造基本統計調査)。病院勤務医の1,382万円には届きませんが、上場企業の平均を284万円上回ります。

開業するとどうなるか。個人経営の歯科医院の損益差額、つまり院長の手元に残る原資は、平均1,409万円、中央値1,024万円です(第25回医療経済実態調査・2024年度実績)。平均と中央値の差が示すとおり、稼ぐ医院とそうでない医院の幅は広く、500万円未満の医院が3割近くある一方で、数千万円の医院もあります。

年収比較。上場企業平均779万円・勤務歯科医1,063万円・病院勤務医1,382万円・開業歯科医の損益差額平均1,409万円

私の実感も足します。仕事柄、開業歯科医の決算書を毎月見ますが、統計の平均より稼いでいる先生のほうが多い印象です。理由の一つは統計の構造で、経営がうまくいって法人化した医院の院長は、この個人経営の平均に入りません。三菱商事やヒューリックには届かなくても、資格ひとつで全国どこでも開業でき、定年がなく、この水準。恵まれていない、とは私には言えません。

正直に付け加えると、ひと昔前の開業医のような、開けば儲かる時代は終わっています。今の歯科は、荒稼ぎの夢を見る場所ではなく、まじめに経営した人がきちんと報われる手堅い専門職です。私はそのほうが、人に勧めやすいと感じています。

AIに仕事を取られる順番は、技術職の最後のほうです

この先どうなるかは、誰にも断言できません。それでも構造だけは押さえておきます。

歯科は手で行う医療です。文章や画像の仕事はこの2年でAIに景色を変えられましたが、自動運転ですらなかなか公道の許可が下りない社会で、人の口の中にAIやロボットが単独でメスを入れる許可が下りるのは、あらゆる職業のなかでも最後に近い順番でしょう。

値段の面では、保険点数は国が決めるものの、インプラント、矯正、セラミックと、歯科にはどの分野にも自費診療の出口があります。点数を削られても、腕と経営で単価を作れる余地が残ります。

供給の面では、国は歯科医師の数を増やさない方向で調整を続けてきました。歯学部の入学定員は削減され、国家試験の合格者数も絞られてきた歴史があります。患者の市場は広がり、担い手は絞られる。需給の向きは、オワコンという言葉と逆です。

歯科医師という職業を支える構造。AIへの耐性・自費の出口・供給の抑制

3割落ちるのは本当です。ただし全員に等しく3割ではありません

2025年の第118回歯科医師国家試験の合格率は70.3%でした。3割は国家試験に落ちる、は数字としてほぼ本当です。

ただ、この3割は全員に等しく降りかかるわけではありません。新卒に限れば合格率は84.0%。国公立大学は全校で新卒合格率80%を超え、私立は53.5%から100%まで、大学によってまったく別の世界です。

第118回歯科医師国家試験の合格率。全体70.3%・新卒84.0%・私立新卒は53.5〜100%の幅

つまり、落ちる3割の話と、供給過剰の話は、別の問題です。前者は、どの大学に入るかでほぼ決まります。後者は、先ほどの医療費と年収の数字が答えです。歯学部に行くべきか、で悩むより、どの大学なら受かる7割の側に入れるか、で悩むほうが、実情に合っています。

オープンキャンパスより、開業医の生活を見せてください

では、迷っている本人に何を見せるか。オープンキャンパスでイメージを湧かせることは大切です。ただ、大学の側にいた経験から言うと、あそこに来るのは、もうその大学を受けたいと決めている受験生がほとんどです。参加したから合格しやすくなる、という仕組みもありません。迷っている段階の人に効く場ではないのです。

私が勧めたいのは、開業医の一日に混ぜてもらうことです。見るのは診療の手技ではなく、院長の生活です。何時に医院に出て、昼に何を食べ、何時に家に帰り、休日をどう過ごし、どんな家に住んでいるか。若い人が知りたいのは、その職業を選んだ先の暮らしです。身近に医療関係の方がいるなら、知り合いの歯科の先生への電話一本で、その半日は用意できます。

実情に触れる半日の作り方。電話一本・半日同行・生活を見る・本人が決める

最後にひとつ。今の若い人は、大人が良かれと思って見せる進路を、期待の圧として受け取ります。目の前では感じよく合わせて、あとで別の道を選びます。だから、勧めるのはやめて、実情に触れられる場だけ用意してあげてください。それで本人がやりたくならなければ、他の道でいいと私は思います。


院長先生へ。若い人にこの業界を勧められるかどうかは、そのまま採用の話でもあります。求人票に書く言葉や、見学に来た学生に何を見せるかで迷ったら、一度ご相談ください。

ICL(Innovation Careers Lab.)で採用・経営の無料相談を受けています。

相談フォーム https://invcareers-lab.co.jp/contact/

LINE https://line.me/R/ti/p/@673yvenv(合言葉「オワコン」と一言だけで大丈夫です)

出典

  • 厚生労働省「令和6年度 歯科医療費(電算処理分)の動向」(2025年8月29日公表)
  • 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」
  • 中央社会保険医療協議会「第25回医療経済実態調査」(2024年度実績・2025年11月公表)
  • 東京商工リサーチ「上場企業3,123社 2025年度平均年間給与調査」
  • 第118回歯科医師国家試験結果(2025年3月発表)

この記事はnote版もあります。 https://note.com/clean_panda517/n/n00159a11bae0

楢原 峻

Author

楢原 峻

株式会社Innovation Careers Lab. 代表取締役

歯科医師 / 博士(歯学) / 日本口腔外科学会 口腔外科専門医

長崎大学病院口腔外科で11年間、臨床・研究・教育に従事しました。2020年から2023年まで医局長を務め、現在は歯科医院を中心に、AI・DX導入支援と経営コンサルティングを提供しています。

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